「漂流するソニーのDNA」が面白かった
プレイステーションの歩みから、コンピュータの過去20年とこれからに思いを巡らせる。
プレイステーションの誕生から現在に至るまでの挑戦・栄光・挫折・再起を、ジャーナリスト西田宗千佳氏がSCE関係者への取材を元にまとめた本。
「イチ・ニ・サンでゲームが変わる」という印象的なキャッチフレーズで1994年12月3日に発売されたプレイステーション。今から18年近く前のことなのに、プレステで動く恐竜のデモやリッジレーサーを見たときの衝撃とワクワク感は今でもはっきりと覚えている。
今では1人1台がスマートホンを持ち、コンピュータとネットワークが当たり前のように日常に溶け込んでいる。でも、18年前の1994年にはまだWindows95すら発売されておらず、家庭にはインターネットも携帯電話も無かった時代。パソコンは高価で無愛想で、コンピュータは普段の生活とは関わりのないものだった。そんな中で、プレステというコンピュータが見せてくれた未来には夢があった。高一*1の冬休み、初めてアルバイトをして、初めて自分で稼いだお金をほとんどつぎ込んで発売直後のプレステを買ったのだった。
…と、個人的な思い出補正はかかっているものの、スーパーファミコン全盛で任天堂の一人勝ち時代に勝負を挑んだプレステが、どのように戦い、成功したかが書かれている。ドット絵全盛の時代に「リアルタイムCG」をというビジョンを描き、1万円以上していたROMカセットの価格をCD-ROMと流通革命により半額まで下げる。半導体の話では、パソコンは技術の進歩が性能向上に向けられるけど、同じ機種が長く生産されるゲーム機ではコストダウンに向けられる。この本は技術本としてもビジネス本とても面白い。ゲームという馴染み深い題材なので、読みやすいのも、いい。
すべての商品は思想のもとにできあがる。特に「新しい」コンピュータは、作る人々が「どのような生活を実現したいのか」という思想がなければできあがらない、と筆者は考える。 (はじめに、より)
今ではアップル社の iPhone を思い浮かべるだろうけど、この本を読むとプレイステーションも同じように強いビジョンを持って開発されたことが分かる。他にもプレステ2開発直後の、プレステ3に向けたブレストでの話が印象に残った。
「世界中のPS3やPS4から、一つのサーバにアクセスさせるとすれば、どこに置くのがいいだろうか。等距離とすると、衛星軌道か?」
これが1999年前後の話だそうだ。今では(クラウドになったけど)当たり前になった話だからこそ、驚く。
初代プレステが成功するまでの話は、10年前に読んだ麻倉 怜士さんのソニーの革命児たち(これも面白かった)にも載っているので、新鮮味は無かったんだけど、この本ではその後のプレステ2での躍進とPSBB, PSXでのつまづき、そして「物売るっていうレベルじゃねぇぞ」で話題となったプレステ3での迷走とその立て直しまでを扱っているので、良くある成功体験だけで終わっていない。
ちなみに、SCE関係者への取材が主なので、ほとんどがプレステ側の視点での記述になっている。ソニーvsセガやソニーvs任天堂といったゲーム機戦争を期待すると肩すかしかもしれない。
いずれにせよ、現代の視点から過去20年を振り返るのにちょうどいい題材だと思うな。プレステ3はオンラインアップデートで日々進化し、torne/nasneはついに我が家での録画機の地位を占めたので、これからも楽しみにしていよう。